平成18年 5月14日 |
パソコンを道具として扱うとき、絶対に避けて通れないのが、文字入力です。
パソコンでの文字入力には、いくつかのやり方があります。
まずひとつは、キーボードを使うやり方。それから、ソフトウェアキーボード(マウスで画面の50音表などをクリックする)、音声(話しかける)、ペンやマウスで直接字を書く方法(手書き、と言われます)、手で書いたものや、印刷した活字の文書をスキャナなどで取り込む方法(OCR、OCRソフト)などです。
キーボードを使う方法にも、いくつかあります。
ローマ字入力、かな入力、直接入力など(※)。
もっとも多くの人が使っている入力方法は、おそらく、キーボードでローマ字入力だと思います。
ここでは、どの入力方法がもっともいいか、ということではなく、一般にローマ字入力と言われるアルファベットの組み合わせでひらがなを作ることを、どう考えるか、ということについて、書いています。これは、初めてこの方法で文字入力を覚える人(小学校の低学年や、パソコンに初めて触る人など)に説明するときに、すんなりわかってもらえるために考えています。
もうひとつ、ここで説明しているのは、この「ローマ字入力」がパソコンで文字を入力するときの手段、という観点から、もっとも効率のよい(つまり、もっともストレスなく快適にパソコンに文字が入力できると思われる)方法を追求して得た考え方です。
この進め方が一番正しい、と言うつもりはありません。いい・悪い、というのは判断の基準によるもので、効率の面から言って、もっともよいと思って使っている方法を紹介しています。
※ 直接入力、というのは、キーボードを使って、画面に(変換するのではなく)いきなり漢字を表示する方法です。そんなことができるのか、と思いますが、それができるのだそうです。(「漢字直接入力+親指シフト」やや古い記事ですが。ちなみに、親指シフト、というのは、かな文字を直接画面に表示する入力法のひとつです。)
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「ローマ字入力」とは何でしょうか。
小学校の国語で習うローマ字は、外国語を話す人たちが日本語を「話す」ことができるように考えられています。
(ここは、歴史的なこと、学問的なことについて議論する場ではないので、こういうことを追求することはせず、わかりやすい説明だけにします。)
もちろん「話す」というのは、言い換えると「発音する」ということで、意味がわかるわからない、ということではなく、ローマ字で書かれたものを外国の人が発音して、日本人がそれを日本語として聞くことができる、ということです。
だから、テニヲハの「は」は、ローマ字では「wa」と書きます。
パソコンで言う「ローマ字」は、書き言葉ですから、この「は」は、「ha」と入力します。haは、「は」という文字を作るための手段です。
国語で習うローマ字は「発音」するための表記で、書かれたアルファベット自体を読みます。一方、パソコンでの「ローマ字」は、文字を作るための手段で、直接使ったアルファベットはあとからは見えません。言い換えると、結果としての日本語の文字が正しければ、どう入力しても構わない、ということです。
このように、国語のローマ字と、パソコン入力での「ローマ字」とは、本質的に全く異なったものです。わたしは、パソコンの入力方法をはじめに「ローマ字」と言ったことが、間違いだったのではないか、と密かに思っています。
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日本語のひらがなは、50音表にまとめられています。言うまでもなく、母音と子音で分類して、表の形に整理したものです。これが、ローマ字の基本になっています。
この50音表には、「清音」(と撥音「ん」)だけが書かれています。「清音」というのは、濁点(てんてん)や、半濁音符(まる)のない文字です。
また、小さい字(ぁ、ぃ、とか、ゃ、ゅ、っ、など)もありません。
国語では、濁点などは、清音の字を書いて、原稿用紙ならその字と同じマスの中にあとからつけます。小さい字は、単独で一マス使いますから、清音とは別の字になります。
ところが、いわゆるローマ字入力ではこうはいきません。
パソコンでの文字入力では、「は」と「ば」は違う文字です。「ば」という字は、「は」に「てんてん」をつけるのではなく、「ば」というひとつの文字です。これが、パソコンの文字入力の大きな特徴です。見た目は「は」に飾りが付いたものですが、別の字です。
濁音、半濁音は、飾り付きの形をした独立した文字です。(一マスに収まる字。直音、と言います)
拗音(ゃ、ゅ、ょなど)、促音(っ)は、それだけで一マス使いますが、パソコンの文字入力では単独の文字という扱いはされていません。「きゃ」は、「KYA」と書き、母音をひとつつけることで、同時に画面に表示される、濁音・半濁音と同じひとつの「飾り付き文字」です。「ふぁ」や「くぁ」なども同じです。(※※)
促音(っ)は、やはり飾りと考えることができますが、拗音とは扱いが少し異なります。拗音は、大きい文字の後に小さい文字が付いてひとつになりますが、促音は大きい文字の前につく飾りです。子音を二つ書いたあとにひとつの母音をつけることで作ることができるので、こう考えることが自然です。
促音の例外は、「っ」が文末や句読点の直前に来る場合です。つまり、「次の文字」がない場合です。(「あっ」など)このときはやむを得ず、単独で入力します。つまり、文章として小さい文字を単独で入力するのは、ほとんどこの場合だけです。
この場合は、はじめにXまたはLを入力しておきます。「XTU」または、「LTU」です。ここで、XとLの使い分けですが、わたしはホームポジション(別稿32.ホームポジションの勧め 参照)で文字を入力しているので、Lの方が使いやすいです。(TUではなく、TSUでもいい場合があります。)
※※「くぁ」は1文字ですが、「くゎ」は入力のためのアルファベットの組み合わせがないので、2文字です。また、「ヴァ」はありますが、ひらがなでこれを書くことはできません。このように、すべてが同じというわけではありませんので、ご注意ください。また、拗音の入力の仕方(アルファベットの組み合わせ)は、日本語変換システム(ATOKやIMEなど)によって多少違いがありますので、お使いのシステムにある対応表でご確認ください。
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先に書いたように、アルファベットを使ってひらがなを作るのは、ひとつの手段です。となれば、できるだけ効率よくひらがなを作ることが、スムースな入力、ということになります。「きゃ」と書くのに、「KILYA」と文字ごとに書けば5文字、「KYA」と書けば3文字ですから、後の方が速くできます。「じょ」なら、「ZILYO」より「ZYO」より「JO」です。この場合は、キーボードの隅にあるZより、中央のJを使うことにもメリットがあります。どちらでもよいなら、楽に入力できて、効率のよい方法を覚えるのが得策です。(別稿32.ホームポジションの勧め 参照)
前項で書いたように、パソコンでの文字入力では、ひとつの母音で作ることができるものをひとつの文字と考えるのが自然です。ひとつの母音で作ることができるのに、敢えて二つに分けることは、効率の面からもお勧めしません。また、導入時に、こういうふうに「1文字ずつ」画面に表示していく習慣をつけてしまうと、次に日本語変換を学ぶときにも具合が悪いです。(別稿34.日本語変換のコツ 参照)
小さい字(拗音)は、単独で書くよりこのようにひとつの母音で一度に書くことができますから、飾り付きの文字として、一文字(ひとつの母音で作る)と考える習慣を初めから持つと楽だと思います。
ローマ字には、学校で習う訓令式と、パスポートなどで使われているヘボン式とがありますが、パソコンでの文字入力の「ローマ字」は、仮名を作るだけのものですから、決まりはありません。効率だけ考えれば、文字数が少なく、中央のキーを使う方が速く入力できます。それぞれが入力しやすい形を使えばいいのです。はじめに覚えるときには、ここに書いたように考えるといいのではないでしょうか。
思っただけで文字が画面に表示されるくらいに文字入力になれてくれば、指がどのボタンを押したかはわからなくなります。
ここに書いたことに反しますが、現実には、わたしは、「し」「つ」「ち」は3文字使っていますがそれになれているので特に入力に手間取ることはありません。「ちゃ」に至っては「CYA」か「CHA」か、聞かれてもわからないのです。そのときによって違っているようで、意識していません。歩くのに、はじめに右足、次に左足、と意識していないのと同じだと思います。どの文字を使って入力するかは、慣れですから、やりやすい形をそれぞれが探って、慣れていけばいいのだと思います。
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学校で教えることの基準に、「学習指導要領」というのがあります。わたしは教員免許を取らなかったので、こういうことには詳しくないのですが、わたしが小学校勤務を始めた頃には、この要領は、この学年でこんなことを教えましょう、というのではなく、ここまで教えてもいいです、という基準でした。言い換えれば、これ以上のことを教えてはいけない、とも読めるものでした。
国語のローマ字は、4年生で教えることになっています。だから、わたしが1年生から「ローマ字入力」を教えたい、と言ったとき、猛烈な抵抗に遭いました。幸い、わたしと同じように、低学年でもローマ字入力よね、と考えておられる先生に助けられて、今に至っています。このことがあって、もともとパソコンの文字入力はローマ字ではない、と思っていたことと合わせて、わたしが使う文字入力の50音表には、「ローマ字」という言葉がありません。(別稿7.50音表 参照)
ローマ字入力を選択する理由がいくつかあって、1年生からこの50音表を使った文字入力を教えています。国語で習う50音表が出そろった頃から始められます。(別稿2.初めてのキーボード 参照)
この導入の時点で、以前は50音表を使っていきなり文字を作りましたが(上記別稿)、今は、ここに書いたように飾り付きの文字、という説明をして、50音表を初めから入力するように変わりました。ひとつずつ入力してその仕組みがわかる方が、取り組みやすいようです。このとき、アルファベットの名前や読み方(発音)を知る必要はなく、どの字とどの字を組み合わせればどの仮名が作れるか、それはキーボードのどこにあるかがわかればいいのです。ただし、母音となる五つの文字だけはしっかり覚えておく必要はあります。
導入には3時間使います。3枚の50音表を配布して、初めの1時間は清音(50音表の1枚目)、次の1時間は飾り付きの文字(濁音、半濁音、拗音)、最後の1時間は促音(前につく飾り)を説明して、順番に画面に文字を作っていきます。そのあと、自分の名前や、家族、友達の名前を書かせます。
初めの時間のうちに、表の2枚目3枚目に挑戦する子どもも多く見られ、字を作る楽しさがわかると、次々に名前を書いたり、しりとりをして遊んだり、と生き生きと取り組んでいます。
これまで書いてきたように、パソコンで文字を入力するやり方としてのローマ字は、国語で習うローマ字ではありません。全く別のものです。従って、国語でローマ字を習う4年生になってから初めてパソコンでの文字入力を始めた場合、混乱する子どもが出るのではないか、という心配をぬぐうことができません。理想を言えば、1年生からパソコンでの文字入力を初めて、4年生でローマ字を習う頃には、もう50音表に頼らずに文字が入力できるように、更に言えば、入力するアルファベットを意識することなく文字を作ることができるようになっていることを理想としています。このためには、できるだけたくさん文字入力の機会を子どもたちに持ってもらいたいと思っています。 字を画面に作ることが負担になると、パソコンを使うことが億劫になります。まず、「A」が「あ」になることに新鮮な驚きと感動を持ってもらえると嬉しいですね。こうやって、おもしろさを感じてくれば、どんどん文字入力に挑戦できます。少し50音表になれてくれば、しりとりをしたり、詩を書いたり(そこに絵もつけて)、お手紙を書いたり、といろいろな場面でパソコンを生かすことができるようになります。
大人で必要に迫られてパソコンを勉強するようになる場合には、面白いなどと言っている余裕はないかも知れませんが、特に低学年では、導入時点で負担に感じないような工夫を是非考えていただきたいと思っています。
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